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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)6683号 判決 1984年6月07日

原告

網代一也

右訴訟代理人

遠藤誠

被告

佐々木角次

被告

遠藤元

右両名訴訟代理人

榎本武光

主文

一  原告の第一次請求及び第二次請求をいずれも棄却する。

二  被告佐々木角次は原告に対し、金二七万三八一〇円及びこれに対する昭和五八年七月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告佐々木角次が原告から賃借している別紙物件目録一(一)記載の土地についての賃料債務は、昭和五九年一月一日以降年額一五万六五二八円(毎年六月三〇日払)であることを確認する。

四  被告遠藤元は原告に対し、金一五万九九八四円及びこれに対する昭和五八年七月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告遠藤元が原告から賃借している別紙物件目録二(一)記載の土地についての賃料債務は、昭和五九年一月一日以降年額九万〇三四八円(毎年六月三〇日払)であることを確認する。

六  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

七  この判決の第二項及び第四項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1(第一次請求)

被告佐々木は原告に対し、別紙物件目録一(二)記載の建物(以下A建物という)を収去して同一(一)記載の土地(以下A地という)を明け渡し、かつ昭和五七年三月三〇日から右明渡しずみまで一か月金一万四六六六円の割合による金員を支払え。

被告遠藤は原告に対し、別紙物件目録二(二)記載の建物(以下B建物という)を収去して同二(一)記載の土地(以下B地という)を明け渡し、かつ昭和五七年三月三〇日から右明渡しずみまで一か月金九七六二円の割合による金員を支払え。

2(第二次請求)

被告佐々木は原告に対し、金三九七万三〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年三月三〇日から完済まで年五分の割合による金員並びに昭和五七年一月一日から毎年六月三〇日限り一年につき金一二万五二〇八円(昭和五七年分のみは金一一万五九〇五円)の割合による金員を支払え。

被告遠藤は原告に対し、金二二二万一〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年三月三〇日から完済まで年五分の割合による金員並びに昭和五七年一月一日から毎年六月三〇日限り一年につき金八万三三四〇円(昭和五七年分のみは金七万七一四八円)の割合による金員を支払え。

3(第三次請求)

主文第二ないし第五項同旨

4 訴訟費用は被告らの負担とする。

5 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の先代網代助太郎は昭和一七年一月その所有の土地のうちA地を被告佐々木に、B地を被告遠藤に、いずれも建物所有の目的で、存続期間二〇年と定めて賃貸したが、その後、助太郎が死亡して、原告が相続し、賃貸人としての地位を承継した。また賃貸借の期間は昭和三七年一月一日に更新され、昭和五七年一二月三一日までとなつた。地代は順次値上げされ、昭和五四年一月一日以降はA地については一か月七三三三円、B地については一か月四八八一円(いずれも3.3平方メートル当たり一五〇円)となつており、毎年六月三〇日までにその年の一月から一二月までの一年分を支払う約であつた。現在、被告佐々木はA地上にA建物を所有し、被告遠藤はB地上にB建物を所有して、それぞれ各土地を引続き占有使用している。

2  昭和三九年一一月一五日原告と被告らとはつぎのとおり約した。

(一) 昭和五六年一二月末日に本件賃貸借の期間が満了したときは、被告らは原告に対しそれぞれ期間更新料を支払う。

(二) 更新料の額は、昭和五六年一二月末日の時点におけるそれぞれの土地の売買価格の一割とする。

(三) 右の約束に違反したときは、原告は催告を要しないで賃貸借契約を解除することができる。

(四) 右契約解除により本件賃貸借が終了したときは、被告らは原告に対し、解除時から土地明渡しずみに至るまで、そのときの地代の二倍に相当する損害金を支払う。

(五) 財団法人日本不動産研究所発表の市街地土地価格指数または公租公課のいずれか一方が高騰したときは、地代はその指数または高騰の割合に従い増額されるものとする。

3  昭和五六年一二月三一日の存続期間満了前に原告は被告らに対し右特約に基づく更新料の支払を求める意思表示をし、これらに対し被告らは借地法第四条第一項による無条件の更新請求をしないで期間を経過したのであるから、ここに被告らが原告に本件各土地の地価の一割を更新料として支払うことを内容とする合意更新が行われた。かりに、これが合意更新ではなく法定更新であつたとしても、右特約により被告らが更新料支払義務を負うことにかわりはない。しかして、昭和五六年一二月三一日の時点におけるA地の価格は三九七三万円、B地の価格は二二二一万円であるから、被告佐々木の支払うべき更新料は三九七万三〇〇〇円、被告遠藤の支払うべき更新料は二二二万一〇〇〇円となるが、被告らはこれを支払わない。

4  そこで原告は、昭和五七年三月二四日被告らに到達した内容証明郵便をもつて、同月二九日までに右更新料を支払うよう催告するとともに、催告期間が経過したときに賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

5  よつて、まず第一次的には賃貸借解除に基づき、被告らに対し、それぞれの建物を収去して土地を明け渡すことを求めるとともに、前記2(四)の約定により、被告佐々木に対しては昭和五七年三月三〇日から明渡しずみまで一か月一万四六六六円の割合による損害金の支払を求め、被告遠藤に対しては同じく一か月九七六二円の割合による損害金の支払を求める。

6  かりに賃貸借解除が容認されないときは、被告らに対し前記3の更新料の支払を求めるほか、地代の増額を請求する。すなわち、本件賃貸借における直近の地代値上げの時である昭和五四年一月一日以後、地価及び公租公課は更に上昇し、このため本件各土地の地代は近隣の土地のそれに比較して不相当に低額なものとなつているので、原告は昭和五七年三月二四日被告らに到達した内容証明郵便により、地代を一か月3.3平方メートル当たり二倍の三〇〇円に増額する旨の意思表示をしたが、昭和五四年一月一日から昭和五七年一月一日までの間における全国市街地価格指数中の六大都市用途地域別の住宅地指数は四八四三分の六八九一倍になつているので、前記2(五)の約定によりこの割合で計算すると、A地については月額一万〇四三四円(年額一二万五二〇八円)、B地については月額六九四五円(年額八万三三四〇円)になる。

7  よつて、第二次的には、被告佐々木に対しては更新料三九七万三〇〇〇円とこれに対する昭和五七年三月三〇日から完済まで年五分の割合による遅延損害金並びに昭和五七年一月一日から毎年六月三〇日限り地代年額一二万五二〇八円(ただし昭和五七年分については、一月一日から三月三一日までは従前の月額七三三三円、四月一日から一二月三一日までは増額後の月額一万〇四三四円の割合により年額一一万五九〇五円となる)の支払を求め、被告遠藤に対しては更新料二二二万一〇〇〇円とこれに対する昭和五七年三月三〇日から完済まで年五分の割合による遅延損害金ならびに昭和五七年一月一日から毎年六月三〇日限り地代年額八万三三四〇円(ただし昭和五七年分については、一月一日から三月三一日までは従前の月額四八八一円、四月一日から一二月三一日までは増額後の月額六九四五円の割合により年額七万七一四八円となる)の支払を求める。

8  以上は被告らが原告に対して更新料を支払う義務があることを前提とした請求であるが、これが認められないときは、原告は更につぎのとおり地代の増額を請求する。すなわち、原告は被告らに対し昭和五七年三月二四日到達の内容証明郵便で地代増額請求をした(前記6)ので、同年四月一日以降の地代は、A地については月額一万一九九一円、B地については月額六九二一円(いずれも鑑定額)に増額された。しかしその後も地価は上昇を続けているので、原告は昭和五八年一二月二八日被告ら訴訟代理人に送達された「請求の趣旨・原因を予備的に追加する申立書」により、昭和五九年一月一日以降A地の地代を月額一万三〇四四円(年額一五万六五二八円)、B地の地代を月額七五二九円(年額九万〇三四八円)(いずれも鑑定額)に増額する旨の意思表示をした。

9  よつて、第三次的に、被告佐々木に対しては昭和五七年一月一日から同年三月三一日までは月額七三三三円、同年四月一日から昭和五八年一二月三一日までは月額一万一九九一円の割合により二年分の地代合計二七万三八一〇円とこれに対する昭和五八年七月一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、昭和五九年一月一日以降のA地の地代が年額一五万六五二八円であることの確認を求め、被告遠藤に対しては昭和五七年一月一日から同年三月三一日までは月額四八八一円、同年四月一日から昭和五八年一二月三一日までは月額六九二一円の割合により二年分の地代合計一五万九九八四円とこれに対する昭和五八年七月一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、昭和五九年一月一日以降のB地の地代が年額九万〇三四八円であることの確認を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は、(一)の約定の点を除き認める。被告らは原告に対し、本件賃貸借を合意更新したときには更新料を支払うことを約束したにとどまり、法定更新のときにも更新料を支払うこととしたものではない。

3  同3は争う。本件は法定更新である。

4  同4の事実は認める。

5  同6及び8のうち、原告主張の各地代増額の意思表示が到達したことは認め、その余は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一1  請求原因1及び2の事実(本件賃貸借契約の存在と内容)は、2の(一)の点を除き当事者間に争いがない。

<証拠>によれば、昭和三九年一一月一五日原告と被告らとの間に結ばれた契約の中には、賃貸借の存続期間が満了したときは、双方協議の上賃貸借契約を更新することができ、この場合には借地人は地主に対しそのときにおける土地の売買価格の一割の期間更新料を支払わなければならない旨の条項が存することが認められる。

2  そして<証拠>によれば、原告は賃貸借の期間が満了する前の昭和五六年夏頃から被告らに対し、契約の更新について前記約定に基づく更新料の支払を求めていたが、被告らは借地法第四条第一項及び第六条第一項による更新を主張し、更新料の支払を拒絶した上、昭和五七年一月以降も引続きA地及びB地の使用を継続していることが認められる。

これによつてみれば、本件賃貸借は、昭和五六年一二月三一日の期間満了に当たり当事者の合意により更新されたものではなく、むしろ借地法の前示規定により法定更新されたものと認めるのが相当である。

3  請求原因4の事実(更新料支払の催告及び賃貸借契約解除の意思表示)は、当事者間に争いがない。

二右の事実を前提として、まず更新料の支払義務について考える。

本件の争点は、原被告間における更新料支払に関する特約は、借地契約の合意更新のときのみならず、本件のような法定更新のときにも適用され、被告らは更新料支払の義務を負うものと解すべきか否か、という点にあることになる。

1 土地の賃貸借契約において、その存続期間が満了する際に、当事者間でいわゆる更新料が授受される事例の多いことは当裁判所に顕著なところであるが、その趣旨は、賃貸人において賃貸借の存続期間満了を機に賃貸借を終了させることを求めず、更新に関する異議権を放棄して円満に賃貸借を継続させることとし、その対価として、賃借人から一定額の金額の支払を得ることにあると解される。

2 これを本件の事案に即してみるに、昭和三九年一一月一五日原被告間に交された契約書中に更新料に関する条項が含まれていることは前認定のとおりであるが、これは、将来賃貸借契約の存続期間満了時に当事者双方の合意で契約を更新することができ、その場合には賃借人は一定額の更新料の支払を要することとしているにとどまり、法定更新の可能性が否定されるものでないことはもとよりであり、法定更新のときの更新料を定めたものでないことは文理上明らかである。ことに本件においては、更新料に関する特約は、存続期間満了までまだ一七年も残していて将来の土地の需給に関する予測もたてがたい時期になされているのであり、しかもそこで約定された更新料の額は、土地の売買価格の一割という今日の世間相場からみれば異例に高額なものである(証人飯島実の証言による)ことにかんがみると、賃借人が存続期間満了時に約定更新料の支払による円満な合意更新の途を捨てて、賃貸借の継続についての多少の危険は覚悟の上で、何らの金銭的負担なくして更新の効果を享受することのできる法定更新の途を選ぶことは妨げられるべきではないのであり、本件における更新料支払に関する特約は、他に特段の事情のない限り、法定更新の場合には適用されないものと解するのが相当である。そして本件では、賃借人に更新料支払の義務を負わせるのを相当とするような特段の事情があるとは認めることができない。

3  そうすると、被告に更新料の支払義務があることを前提とする第一次請求及び第二次請求は、いずれも理由がないものといわなければならない。

三つぎに原告は第三次請求として地代の増額を求めているので、この点について判断する。

1  原告が被告らに対し①昭和五七年三月二四日被告らに到達した内容証明郵便により、②次いで昭和五八年一二月二八日被告ら訴訟代理人に送達された書面により、請求原因8記載のとおり地代増額の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。

2  <証拠>を総合すると、A地及びB地は国鉄常磐線金町駅西方約一キロメートルの地点に位置し、その一帯は都市計画法上の住居地域に指定されていて、中小規模の一般住宅が多くみられる住宅地帯であるところ、財団法人日本不動産研究所発表の全国市街地価格指数のうち六大都市の住宅地の指数は、昭和五四年三月に四八四三であつたものが昭和五七年三月には六八九一になつており、この間A地B地付近の地価も逐時騰貴し、公租公課及び消費者物価も上昇しているのであり、この傾向は昭和五七年三月以後昭和五八年末に至る間も続いていることが認められる。

してみると、昭和五四年一月一日以降A地につき一か月七三三三円、B地につき一か月四八八一円であつた地代は、右のような経済事情の変動により、昭和五七年三月二四日及び昭和五八年一二月二八日の各増額請求時点において不相当に低額化しているものと認められるので、右増額請求に基づき①昭和五七年四月一日以降及び②昭和五九年一月一日以降いずれも相当額に改訂されたものということができる。

3  そこで、改訂された相当額について検討する。

この点に関する鑑定人田坂勇の鑑定は、まずいわゆる積算法と賃貸事例比較法の二方法を総合して右②の時点(正確には昭和五八年一二月一日の時点)の賃料額を求め、次いで逆スライド方式により①の時点の賃料額を算出しているものであり、具体的には、A地については①の時点で月額一万一九九一円、②の時点で月額一万三〇四四円、B地については①の時点で月額六九二一円、②の時点で月額七五二九円としているのであるが、この鑑定額は鑑定評価の理由の記述に照らし首肯しうるものであり、他にこれを不当とすべき事由の見当らない本件においては、右鑑定額をもつて各時点における改訂された賃料額と認めるのが相当である。

4  そうすると、被告佐々木は、A地の既経過分の賃料として、昭和五七年一月一日から同年三月三一日までは月額七三三三円、同年四月一日から昭和五八年一二月三一日までは月額一万一九九一円の各割合により二年分合計二七万三八一〇円とこれに対する各支払日(毎年六月三〇日)の翌日以降の遅延損害金を支払うべきであるとともに、昭和五九年一月一日以降は年額一五万六五二八円(月額一万三〇四四円)の賃料支払義務を負うことになる。また被告遠藤は、B地の既経過分の賃料として、昭和五七年一月一日から同年三月三一日までは月額四八八一円、同年四月一日から昭和五八年一二月三一日までは月額六九二一円の各割合により二年分合計一五万九九八四円とこれに対する各支払日(毎年六月三〇日)の翌日以降の遅延損害金を支払うべきであるとともに、昭和五九年一月一日以降年額九万〇三四八円(月額七五二九円)の賃料支払義務を負うことになる。

四よつて原告の被告らに対する第一次請求及び第二次請求はいずれも棄却し、第三次請求はこれを認容し、訴訟費用の負担と仮執行宣言につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。 (藤井正雄)

物件目録<省略>

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